はじめに
私は訪問看護ステーションで働き始めて5年目となります。生活期で働くのは今の職場が初めてであり、以前は回復期リハビリテーション病棟がある病院で働いていました。
病院で働いている頃は教科書に書かれているように各期の役割分担として「集中的リハビリテーションによる機能回復とADLの向上」を目的に運動器疾患の方には最大で90日、脳血管疾患の方には最大で180日の期間、私は理学療法を提供していました。
私が働いていた職場はチーム制(1人の患者さんに対してPTが担当として1人つくが基本的には複数人のチームで患者さんを見ようとする体制)でしたので、事前の家屋情報をもとに現状の動作能力で在宅復帰が可能なのか、在宅復帰した場合にどのような環境調整が必要なのか話し合っていました。退院直前になってくると「自宅に帰ったらこのような自主練習をして下さいね」「〇〇に注意して下さいね」などの資料を作成し、患者さんにお渡ししていたと思います。
このように少しだけ病院で働いていた頃のことを書きましたが、最初に書いた通り今、私は訪問看護ステーションで理学療法士として働いています。
生活期は「集中的なリハビリテーションによる機能回復とADL向上」よりも「自立生活の推進」や「介護負担の軽減」「QOLの向上」が特に必要とされるステージであると感じています。病院で働いていた頃を否定するわけではないですが、自主練習に関しても何となく必要な運動を記した資料を作成していたな、「自宅に帰ったら〇〇注意して下さいね」とこちらの要望100%で指導、助言していたなと少し反省する部分もあります。
今回はそんな反省点から生活期で働いていて感じたことをお伝えしていこうと思います。
個人的な見解も多いのでその辺りはご了承下さい。
生活期における運動介入のエビデンス
まず、「生活期における運動介入のエビデンス」に関してです。
最近は急性期や回復期において在院日数の短縮化が厚生労働省において主導されています。一つの例ですが、脳血管疾患の患者さんは最大180日のリハビリ期間があるわけなのですが、この動きによって発症から180日満たない期間で病院を退院する方もいます。基本的には運動麻痺は6ヶ月を超えるとプラトーに達すると言われていますが、若年症例では6ヶ月を超えても緩徐に改善すると言われています。つまり、在宅においても生活機能面へのアプローチだけでなく、機能障害に対するアプローチも必要なのです。これまで病院退院後の生活期における運動は軽視されてきましたが、以下に紹介する報告により生活期での運動介入の効果は保証されています。
また、上記のように十分なエビデンスが確立されていませんが、ロボットや装具の普及によりこれまで実施されてこなかった歩行再建のトレーニングを受けることが可能となってきています。
運動麻痺などの症状が固定されている生活期の方でも安全に繰り返し正しい動きで十分な運動量を確保することで小脳における内部モデルの生成、つまり「運動学習」の効果が得られると思われます。
自宅での自主練習のポイント
生活期における運動介入のエビデンスにも記載したように効率的な運動学習により動作能力は改善される場合が多いです。廃用症候群により動作能力の低下をきたしている方でも身体機能面へのアプローチで改善が期待できます。
とはいえ、自宅に帰られた方に対しては回復期の病院ほど理学療法や作業療法の【量】が提供されるわけではありません。ここで重要になってくるのは自主練習・ホームエクササイズです。
どうしても生活期においてご自宅で訪問するまたはデイに通ってこられるという場面では週2〜3日、1回20〜60分の間だと思います。中には週1回、20〜40分という方もおられることでしょう。
これでは【量】を確保することができません。
ただ、病院時代の私のようにやみくもに自主練習を提供してもおそらくして頂けることはないでしょう。私も人に誇れるほどではないですが、ポイントは掴んできたと思います。
以下に記します。
日常生活をより一人で過ごすことが可能となるようなアプローチ
生活期において在宅生活を送る方に訪問する醍醐味の一つに住環境整備があります。
福祉用具の導入や家具や物品の位置の配置換え提案などです。
ただ、「現時点」での提案だけでなくその方の個別性を考慮する必要があります。例えば、その利用者さんがこれから「低下」していくのか、「維持」されるのか、「向上」するのか予測して環境整備の提案を行う必要があります。
病院時代の私ですが、「入院直後にご自宅を訪問し自宅環境を確認する」「退院前に訪問して必要な福祉用具を導入する」を担当理学療法士や作業療法士のみで実施していました。生活期で働くようになり、病院よりもケアマネジャー、福祉用具専門相談員や一緒に働くスタッフ(看護師)に訊くことも自分では想像し得なかった助言がもらえるチャンスです。私が担当だからとプライドがある人もいますが、ぜひ関わる人に訊いてみて下さい。
以下は私が経験したほんの一部を記載します。
家族指導により介護力の強化だけでなく介護負担の軽減も!
介護が必要な方にとって自宅で生活し続けるためには家族、介護者の存在は欠かせないですよね。身体的、心理的な疲弊により在宅の継続が不可能になることも多いです。
在宅介護スコア(HCS)やZarit介護負担尺度日本語版などの評価があるように介護者の身体的、心理的な負担を軽減することも生活期で働く理学療法士や作業療法士の役目です。
これを話すと実際に何も行動する人がいなくなる可能性があるので言いたくない気持ちもあるのですが、脳卒中者の生活期において、リハビリテーションも期待されているのですが、武藤(2010)は、訪問リハビリテーションにより介護負担感が軽減したと報告しています。効果的なのは当事者だけではないようですね。
介護指導(身体的・心理的)のポイントは
・介助のポイントをしぼって伝える
・写真、イラスト付きの紙面に明記し、介助時に目につく場所に掲示する
・スマホやタブレットなどで動画を撮影し、ご家族様や介護者がいつでも動画で確認できるようにしておく
・「見通しが立つ介護」となるようにする。(介護者がしんどくなった場合に他サービスの利用も事前に提案しておく)
まとめ
- 生活期は「自立生活の推進」や「介護負担の軽減」「QOLの向上」が必要なステージであり、運動介入による機能回復や運動学習の効果が期待できる。
- 自宅での自主練習は、日常生活に関連する動作や目標を設定し、資料や動画などで分かりやすく指導することが大切。
- 住環境整備は、利用者の個別性や将来的な変化を考慮し、福祉用具や家具の配置などを提案することが必要。
- 家族指導は、介助方法や注意点を伝えるだけでなく、介護者の負担感を軽減するためにサービスの利用や見通しを示すことも重要。
- 訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションは、退院後も途切れないリハビリテーションを提供するサービスであり、主治医やケアマネジャーに相談して利用することができる。