歩行の基本

【歩行分析(各相における機能と観察ポイント)~ミッドスタンス編~】

歩行分析とは文字通り、歩行を分析することで残存機能や問題点を明らかにすることです。

そうすることで、運動療法や環境面などアプローチができるようになり、問題点の解決を図ることができます。

私たち理学療法士は動作分析の専門家であり、歩行分析を得意としています。

しかし、見るべきポイントがとても多くて、その上たくさんの訓練や経験が必要になります。

理学療法士を目指す学生さんだけでなく、現役理学療法士であっても正直、苦手とする方も多いでしょう。

なのでこの記事で歩行分析に基本的な知識を以下のようにまとめました。

  • 正常歩行のメカニズム
  • 歩行分析の観察すべき点
  • 臨床でよくみられる異常現象

私の経験や私見も含まれていますが、この記事を読むことで歩行分析やリハビリでの着眼点を増やすことができます。

どうぞお役立て下さい。

歩行周期について

歩行周期とは、脚が地面に着いてから再び同じ脚が地面に着くまで、のことです。

理学療法士が歩行分析をする際には、この歩行周期を8つの層に分けて各相の特徴と照らし合わせながら行います。

*この記事では、一番臨床で使用される歩行周期の「ランチョ・ロス・アミーゴ方式」に基づいて説明していきます。

ミッドスタンス(Mid stance:Mst)(立脚中期)の定義

始まり:反対の脚が地面から離れた瞬間

終わり:観察している脚の踵が床から離れた瞬間

この時期は歩行周期の中で重心が最も高くなる時期であり、前足部まで身体を運び、脚~体幹を安定させることが重要です。

ミッドスタンスでのチェックポイントは以下の3つ。

ミッドスタンスの観察ポイント

アンクルロッカーが機能されているか?

重心が最上位まで持ち上げられているか?

体幹と骨盤は真っすぐか?

ミッドスタンスは足部前方まで身体を運ぶことと体重を安定して支えるという役割があり、

上記の3つのポイントが機能していることでその主な役割を果たすことが出来ます。

では、さっそくその中身を詳しく見てみましょう。

観察ポイント1:アンクルロッカーが機能しているか??

アンクルロッカーとは、足関節を軸にして下腿が前傾する運動のことを言います。

足関節(赤色)を軸に、下腿が前傾する様子

このアンクルロッカーにより、スムーズに重心を前方へ移動することができます。

ミッドスタンスの早期と後期で、活動する筋肉が変わる

LR(ローディングレスポンス)で働いていた膝や股関節周囲の筋肉の収縮は休止し、下腿三頭筋の遠心性収縮へと切り替わるようになります。

(①ヒールロッカー→アンクルロッカーに変わる)

(②床反力ベクトルによるモーメントの向きが変わる)

LR(ローディングレスポンス)ヒールロッカーについては以下の記事もご覧下さい。

【歩行分析(各相における機能と観察ポイント)~ローディングレスポンス編~】 歩行分析とは文字通り、歩行を分析することで残存機能や問題点を明らかにすることです。そうすることで、運動療法や環境面などアプローチができ...

アンクルロッカーが機能できないよくある原因に足関節背屈制限によるものがあります。

足関節背屈制限による異常現象

下腿三頭筋の拘縮、足関節自体が固定された装具をつけることで背屈の動きが制限されてアンクルロッカーが機能出来なくなります。

ヒールロッカーは過度となり、アンクルロッカーは機能出来なくなる。

また、このような足関節背屈制限がある場合には、重心を前方に移動できません。

そのため、体幹・股関節の屈曲や骨盤の回旋を行って、重心を前方に移動させようとします。

体幹が前傾するようす

アンクルロッカーが機能しない主な原因は足関節背屈制限によるもので、それによって上記のような異常現象を引き起こすきっかけとなります。

下腿三頭筋の拘縮を改善させたり、装具に適切な足継手を設定することで足関節背屈の動きを正常化させることは非常に重要なポイントになります。

観察ポイント2:重心が最上位まで持ち上げられているか??

ミッドスタンスで、重心が最上位まで持ち上がって次の相(ターミナルスタンス)で落下します。

そうなることで、位置エネルギーを運動エネルギーに変換することができて歩行速度の加速が生み出されます。

でも、重心を上方へ持ち上げられない場合は、重心が落下するエネルギーを利用できません。

よって、筋により推進力を得なければならないために、非常に疲れやすくなります。

なので、ミッドスタンスで重心を最上位にすることは、効率的な歩行をする上ですごく重要なことなのです。

重心の上下移動が無ければ、推進力は生まれない(右)

とはいえ、歩行周期の中で重心の上下移動が大きくなりすぎると推進力を損なうことに繋がります。

重心が最も最上位となるMstと、最も最下位となるLRで、重心の上下移動の長さはどのくらいなのでしょうか?

単純にMstとLRの重心の高さは9.5㎝になると言われています。

でも、歩く中で重心が9.5㎝も上下してしまうとかなり非効率な歩行となってしまいます。

そのため、実際には下記のようなわずかな骨盤の動きによって重心の上下移動は約5㎝程度までに抑えることが出来て、上下にブレ過ぎない効率の良い歩行が可能になります。

矢状面・前額面・水平面での骨盤の動き

観察ポイント3:体幹と骨盤の位置関係はどうなっているか??

体幹と骨盤の位置関係が崩れると、次のターミナルスタンスやスイングの時期に悪影響を与えます。

多いのは、骨盤に付着している中殿筋の筋力低下による異常歩行です。

中臀筋筋力低下により、トレンデレンブルグ歩行とデュシェンヌ歩行という2つの異常が出現します。

トレンデレンブルグ徴候陽性
デュシェンヌ歩行

トレンデレンブルグ歩行は、中臀筋筋力が低下していない側に骨盤が下制します。

デュシェンヌ歩行は、中臀筋筋力が低下している側へ体幹を側屈します。

必ずしもこの2つの異常現象が出現したからといって、原因は「中臀筋の筋力低下だけ」というわけではありません。他の原因も考える必要があります。

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非常に臨床では多く見られますので覚えておきましょう。

Mid stance:Mst(ミッドスタンス)まとめ

ミッドスタンスは歩行周期の中で重心が最も高くなる時期であり、前足部まで身体を運び、脚~体幹を安定させることが重要です。

以下の3つを意識して評価しましょう!

<Mstのチェックポイントまとめ>

アンクルロッカーが機能されているか?

重心が最上位まで持ち上げられているか?

体幹と骨盤は真っすぐか?

見るポイントは多いですが、しっかり評価していきましょう!

今回は歩行分析の1つ、【Mid stance:Mst(ミッドスタンス)】に必要な理解しておきたい、メカニズム・チェックしておきたいポイント・臨床でよくみられる異常歩行についてまとめてみました。

この記事の内容が全てではありません。

ですが、

ヒトってどうやって歩いているんだろう?

なんでこんな異常歩行になるんだろう?

など、

この記事をきっかけに考えてもらうようになれば、とてもうれしいです。

他にも動作分析関連記事を書いていきますので、宜しければ参考にして下さい。

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ARUKU室長
広島県福山市東陽台にて「まちの歩行分析室・リハビリ相談室ARUKU」をオープン。2007年に理学療法士国家資格を取得後、急性期・回復期・生活期でのリハビリテーション・理学療法の経験を経て現在に至る。学生に対する動作分析指導から障害予防など多岐にわたる分野の記事を執筆中!