- 正常歩行のメカニズム
- 歩行分析の観察すべき点
- 臨床でよくみられる異常現象
私の経験や私見も含まれていますが、この記事を読むことで歩行分析やリハビリでの着眼点を増やすことができます。
どうぞお役立て下さい。
歩行周期について
歩行周期とは、脚が地面に着いてから再び同じ脚が地面に着くまで、のことです。
理学療法士が歩行分析をする際には、この歩行周期を8つの層に分けて各相の特徴と照らし合わせながら行います。
*この記事では、一番臨床で使用される歩行周期の「ランチョ・ロス・アミーゴ方式」に基づいて説明していきます。
Loading Response:LR(ローディングレスポンス)の定義
始まり:イニシャルコンタクト
終わり:反対側の脚が地面から離れた瞬間
ローディングレスポンスは、対側の下肢から荷重を受け継ぐ時期であり、衝撃吸収と前方への動きをスムーズに繋げる役割があります。
そんなローディングレスポンスで必ずチェックするべきポイントは、以下の2つ。
- ヒールロッカーが機能できているか?
- ダブルニーアクションが見られるか?
ローディングレスポンスは衝撃吸収と前方への動きをスムーズに繋げるという役割があり、
上記の2つのポイントが機能していることでその主な役割を果たすことが出来ます。
では、さっそくその中身を詳しく見てみましょう。
観察ポイント1:ヒールロッカーが機能しているか??
前回の記事「イニシャルコンタクト」で説明しました「ヒールロッカー」が行われる時期です。
イニシャルコンタクトの時期に踵接地が行われた後、徐々に足底全面が地面に接地していきますが、この際に踵を軸に下腿が前傾して重心を上方に持ち上げるヒールロッカー機能が働きます。
このヒールロッカーを実現させるために必要な筋は「前脛骨筋」です。
前脛骨筋は、踵接地後ヒールロッカーが行われている最中に、足関節の背屈を維持(遠心性収縮)して踵を支点にゆっくりと回転できるように働きます。
このヒールロッカーが機能することにより、下記の図のような動きが可能になります。
①=ヒールロッカー、これが機能することで踵を中心に下腿が前方へ傾いていく。その後、足底全体が地面に接地してMst(ミッドスタンス)にかけて重心を前上方へ持ち上げる=②。
なので、ヒールロッカーを実現させるためにはまず「踵から接地」し、続いて「踵を支点にゆっくりと回転」が出来るように、「前脛骨筋」という筋肉の働きが欠かせません。
もしも踵接地後に前脛骨筋が働いていなければ、「FootSlap(フットスラップ)」という異常が出現します。
「FootSlap(フットスラップ)」とは??
「FootSlap(フットスラップ)」とは、前脛骨筋が運動麻痺などによって筋がコントロールできない場合、踵接地後に急速に足部が底屈して床に「パタン!」と音を立てて足底接地する現象のことを言います。
正常では、踵接地後に前脛骨筋が収縮して、足部と一緒に下腿が前方へ回転するのですが、Footslapの場合、足部のみが底屈して下腿が後方に残されたままになります。
これだと、衝撃吸収が不十分となり、また前方への推進力も落ちてしまいます。
FootSlap(フットスラップ)による弊害1:膝関節屈曲
フットスラップはヒールロッカー機能がうまく使えないだけではなく、膝関節が前方に動く慣性力が働いて、膝関節の屈曲角度の増加(膝折れ)が見られます。
これだと、膝関節の大腿四頭筋に過度な負荷が掛かってしまって効率的な歩行とは言えません。
よりイメージしやすいように、1つ具体例を出してみます。
例えば、短下肢装具(ゲイトソリューション、シューホーンブレース、オルトップ)といった、足関節が固定された装具を健常者が着けて歩こうとすると、下記のようになります。
*なぜなら、標準の歩幅や歩行スピードで歩くためであり、足関節が固定された装具を使う対象者=標準の歩幅や歩行スピードで歩くことが出来ない人である
*上記のような過度のヒールロッカー・過度の膝および股関節屈曲を防ぐためには、底屈可動域へ制動をつけてくれる足継手を導入する
*足関節が固定された装具を選ぶのか?、底屈制動付の装具を選ぶのか?は、どのような歩行を目指すのかによって異なる。
FootSlap(フットスラップ)による弊害2:反張膝
大腿四頭筋の運動麻痺や筋力が低下してしまっている方は、FootSlapから「反張膝(back knee)」になる方もいます。
反張膝(back knee):膝が伸び切って、反り返ってしまっている状態
歩行の研究で有名なPerry博士は,歩行中に膝が伸びすぎてしまう(反張膝が発生する)理由について,以下を挙げています。
①大腿四頭筋(膝を伸ばす筋肉)の筋力低下
②大腿四頭筋の痙縮
③膝関節の疼痛
④足背屈筋(前脛骨筋;つま先を上げる筋肉)の筋力低下
⑤足底屈筋(下腿三頭筋;かかとを上げる筋肉)の痙縮
⑥股屈筋(大腿直筋,腸腰筋;股関節を曲げる,太ももを持ち上げる筋肉)の筋力低下
それぞれについて解説します。
①大腿四頭筋(膝を伸ばす筋肉)の筋力低下
人の正常な歩行では,かかとをついた後に膝関節が素早く曲がろうとします。
このとき,膝を伸ばす筋肉に筋力低下があると,この動きを制御できずに膝が曲がりすぎて転倒するおそれがあります。
そのため,筋力低下を自覚している人は膝を伸ばしたまま歩こうとしてしまい,荷重軸が膝関節の真ん中よりも前を通るため膝を伸ばそうとする強い力が働いてしまいます。
②大腿四頭筋の痙縮
痙縮とは筋肉が緊張しすぎて関節を動かしにくくなってしまっている状態をさします。
脳卒中など中枢神経の病気やその後遺症で生じることがあり,大腿四頭筋の痙縮があらわれると,先ほど述べた歩行中の膝関節運動を邪魔してしまうことになります。
結果として膝を伸ばしたままで荷重を行い,さらに膝を伸ばすような大きな力が加わります。
③膝関節の疼痛
膝は荷重(体重が加わる)関節です。荷重したときに痛みがある方の多くは,なるべく膝に力を入れず,関節を大きく動かさずに歩こうとします。
結果として膝を伸ばしたままの着地,荷重となってしまいます。
④足背屈筋(前脛骨筋;つま先を上げる筋肉)の筋力低下
つま先を上げる筋肉に筋力低下が生じると,歩行中に足をつくとき,かかとからではなく足の裏全体で地面に接地してしまいます。
その結果,荷重が足の前方へ移動することで荷重軸が膝関節の中心よりも前方を通り膝が強く伸ばされてしまいます。
⑤足底屈筋(下腿三頭筋;かかとを上げる筋肉)の痙縮
足底屈筋に痙縮が生じると,足関節を背屈(つま先を上げる)ことが難しくなり,④と同じような状況がうまれます。
さらに,足の裏が床についた状態で以下⑥に続きます。
⑥股屈筋(大腿直筋,腸腰筋;股関節を曲げる,太ももを持ち上げる筋肉)の筋力低下
股関節を曲げる筋肉は,足が地面についている場合には膝が伸びすぎてしまうことを防ぐ働きを持ちます。
そのため,筋力低下によってその作用が小さくなった場合には膝が過度に伸ばされる可能性があります。
ここらでいったん整理します。
LR(ローディングレスポンス)で重要な観察ポイントの1つは、ヒールロッカーが機能しているか??、ということ。
ヒールロッカー機能が働かないと、このローディングレスポンスではFootSlap(フットスラップ)が生じます。
FootSlap(フットスラップ)による弊害は主に2つ。
それが、
・膝関節屈曲(膝折れ)
・反張膝
これらの主な改善策としては、ズバリ!、前脛骨筋&大腿四頭筋の筋力トレーニングです。
ちなみにFoot Slap(フットスラップ)が出現しながらでも、町中を歩いている方もいます。
なのでFootslapが出現していたからといって、歩行ができないというわけではありません。
しかし効率の良い歩行を望むのであれば、改善できるように考えていきましょう!
観察ポイント2:ダブルニーアクションが機能しているか??
歩行周期のうち、立脚期と遊脚期にそれぞれ1回ずつ膝関節が屈曲します。
これを「ダブルニーアクション(double knee action)」と言います。
更に細かく言うと、立脚期のローディングレスポンスで膝関節が約20度屈曲することを「第1ニーアクション」と言います。
ローディングレスポンスでは、この第1ニーアクションが非常に重要となります。
突然ですが、皆さんは卵を割れないようにキャッチするとき、どのようにキャッチしますか?
大体の方は手を卵の落下速度に合わせて、力をいなしてキャッチすると思います。
この第1ニーアクションの役割も同じで、地面からの衝撃を吸収するために膝関節を屈曲して、いなしています。
なので、ローディングレスポンスでは「いなす」際に必要な大腿四頭筋の筋力も重要となってくるんですね。
もし、この20度の膝関節屈曲が見られない場合は、その後の歩行に悪影響を及ぼします。
大腿四頭筋に筋力低下を認める場合
このダブルニーアクションが起こせるかどうかに重要な筋が、やはり大腿四頭筋です。
大腿四頭筋に筋力低下を認める場合、ローディングレスポンスでダブルニーアクションが起こせず「膝関節屈曲角度の増加&膝折れ」や「反張膝」が見られ、次の相であるミッドスタンスに悪影響を及ぼします。
【そもそも反張膝って問題なのか?】
ここまでに反張膝がどのようなものなのか,そしてその原因について説明してきました。
しかしながら,そもそも反張膝は歩行にとって有害なのでしょうか?
反張膝の良い点,悪い点について説明します。
反張膝は膝を伸ばす筋肉の筋力低下によって生じることを説明しましたが,裏を返せば膝を伸ばす筋力が小さくても反張膝を用いれば歩くことが可能になります。
先ほど説明した中枢神経の病気によって膝を伸ばす筋力が低下している方であっても,反張膝を用いて筋肉ではなく靭帯に代表されるようなその他の組織によって膝関節を支えて歩くことができます。これは大きなメリットといえるでしょう。
一方で,反張膝をともなう歩行を長く続けることにより関節まわりの組織にストレスが加わり続けることによって,膝関節が不安定になり,痛みを伴う場合があります。
そのような症状が出現した場合には,膝の装具や人工関節などで治療せざるをえず,反張膝をともなう歩行のデメリットといえるでしょう。
Loading Response:LR(ローディングレスポンス)まとめ
ローディングレスポンスはいかに対側の下肢からスムーズに荷重を受け継ぎ、衝撃吸収と前方への動きを邪魔しないことが重要です。
以下の2つを意識して評価しましょう!
今回は歩行分析の1つ、【Loading Response:LR(ローディングレスポンス)】に必要な理解しておきたい、メカニズム・チェックしておきたいポイント・臨床でよくみられる異常歩行についてまとめてみました。
この記事の内容が全てではありません。
ですが、
ヒトってどうやって歩いているんだろう?
なんでこんな異常歩行になるんだろう?
など、
この記事をきっかけに考えてもらうようになれば、とてもうれしいです。
他にも動作分析関連記事を書いていきますので、宜しければ参考にして下さい。